10年ほど前の話です。娘達とイタリアの旅に出ました。私は30代から海外旅行に出かけましたが、大抵仕事絡みで接客に気疲れする事が多く、心から楽しめる旅をしたことがありませんでした。
この旅は個人旅行です。英語に堪能な次女や、土地勘の良い長女に助けられての旅です。観光スポットの多いフィレンツェを2日程周り、そこからタクシーでトスカーナを目指しました。トスカーナはなだらかな緑の丘が幾重にも続きます。その丘をいくつも越えて宿を目指します。アグリツーリズモの体験です。
その宿は、元領主の館だった所を宿泊施設に改装したものだそうです。街中のホテルとはまるで違います。2階の部屋には、フィレンツェで泊まったホテルのようなデコラティブな装飾がほとんどなく、むき出しです。家具も少なく広々としていて、心地良い風が窓から窓へ抜けて行き、窓辺に立つと田園風景が見渡せます。その心地よい風に身を任せていると、心が解き放たれるようです。部屋は広いリビングと寝室にシャワールームなどがついています。食事は1階の食堂まで降りて行かなければなりません。
夕食は特産と言われる美味しいワインとオーナー手作りの料理でした。品数が沢山あるわけではありませんが、なかなかのお味です。ワインは本当に味わい深くここだけで扱っていると言うので、年代物の赤を数本分けて頂きました。ワインも産地で飲むから、より美味しく感じられるのだろうと思いましたが、買わずにはいられませんでした。心まで満たされて楽しい気分になり、ほろ酔い加減で娘と庭に出て見ると、夜空は満天の星でした。
この宿を起点にして近くの古都オルヴィエートに出かけました。ゴシック建築で有名なドゥオーモの中で静けさと一体になった後、入口の階段に座り、観光客や参拝者の人の流れをぼんやり眺めました。空は青く陽射しが眩しく感じられます。
ドゥオーモまでの細い道を車のある場所まで戻りながら、ワインを探したり、雑貨店に入りお土産を見たり気ままに歩いていました。文具店のようなお店がありましたので、ふらっと中に入っていくと、何と店のオーナーは日本の女性でした。一瞬イタリア美人かと思う程美しい人です。こんな小さな町で日本の女性に出会うとは驚きでした。その方とは今でも時々メールのやり取りをしています。
ところで、トスカーナでの滞在で一番思い出深い事と言えば、昼間、娘と散歩していた時に出会ったジョギング中の土地の人との温かい交流や、ショッピングセンターまで歩いて行って買った、ヨーグルトの美味しさなどです。こんな事は日本でも普通にやっている事ですが、日本人の一人も居ない外国の田舎町での出来事は、一瞬観光客と言う事を忘れさせました。いっときトスカーナに溶け込んだような気分が最高でした。フィレンツェに戻るタクシーの運転手はモデルさんかと思われるほどのイケメンで、これも忘れられない思い出のひとつです。
フィレンツェの思い出はまた別の機会に書きたいと思います。
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