私はこれまであまり旅館と言われる施設に宿泊したことがありませんでした。理由のひとつにはリウマチと言う持病を持っている為、布団だと起き上がりに苦労するからです。よくよく考えれば、以前ご紹介した翠松園の寝具はベッドですが、全体に旅館ともホテルとも区分けの付きにくいそれぞれの良さを取り入れた施設だと言えます。昨今はこのような場所が増えたように思います。ホテル、旅館と特別に区別する時代ではないのかも知れません。
今回ご紹介したい「加賀屋別邸 松乃碧」は昨年次女と宿泊した所です。
以前「武士の献立」と言う映画で加賀藩が江戸からの使者をもてなすにあたり、食材のヒントを得るために加賀藩台所方の藩士とその妻が能登まで旅をするシーンがあります。当時は能登に食材探しに行く、という行為がピンと来ませんでした。能登は輪島塗や金箔で有名くらいしか認識がなかったのです。ところが、能登の印象は今回の旅で全く違ったものになりました。
出発の日は、あいにく能登空港が暴風雨のため急に閉鎖になり、急遽小松空港に向かう事になりました。空港からバスで金沢駅に向かいました。お昼時でしたので、駅の構内ですぐにお鮨屋さんに入りました。席数も少ない小さな鮨屋でした。私は「小ぶりに握って下さい」と、いつものように職人さんに頼みました。ここは加賀藩のお膝元、何とも小さく上品過ぎる握りが出てきました。旨い!名前を知らない肴もあり、ワインを飲みながら加賀藩に来た実感を味わったことでした。大体お抹茶の盛んな所、元藩があったところは和菓子が揃っているところが多いと言います。私は特に、諸江屋の生落雁が大好物です。早速和菓子を中心にお土産を見て回りました。
サンダーバード(特急)で目的地の能登の和倉温泉に向かいました。駅には送迎バスが並んでいました。加賀屋は名称の違うさまざまな特徴を持った旅館を揃えています。中居さんがずらっと並んで客を迎える事で有名だとも聞きました。
松乃碧は「美術館に泊まる」をキャッチコピーにまた、北陸でいち早くインクルーシブシステムを取り入れた所としても有名です。
さて、落ち着きのある表玄関から入ると、あちらこちらに美しい地元の工芸作品がラウンジまでレイアウトしてあります。輪島出身の漆工芸家・角偉三郎氏の作品の展示も並んでいて目を釘付けにします。
広々としたラウンジでゆったりとしたソファに座ると、茶室や七尾湾が見わたせます。モダンな九谷焼の蓋付茶碗になんと早速諸江屋の生落雁が共に並び、すでに能登の人になったような気分を味わいました。
今回の旅は2泊3日です。到着のその日は早速有名な前田家ゆかりの茶室(得寮庵)でお抹茶を頂く事になりました。お亭主のはんなりとしたお手前は流れるようで、心温まる一服でした。半東さんのお茶室の説明やご由緒を聞きながら眼前に広がる七尾湾の静けさが心を休めていきました。
夕食は個室で娘と二人で頂きました。
こちらの食事は一言で申しますと絶対に客に飽きさせない総意工夫に溢れているという事です。
まず取り上げた箸から趣向を施してあり、箸を割ると金粉がハラハラと舞い驚かされました。先付けから始まる一品ずつを運んで頂く会席料理ですが、どのお料理も能登の食材を活かし切った絶品のお味です。そして、器と言えば、九谷焼を中心に、塗りは輪島、驚くことに宿泊している間、一度もテーブルに同じ器が登場することはありませんでした。器さえ一期一会とでもいうのでしょうか。
海を前にしてお魚はもちろんのこと能登牛、能登豚、野菜は全て能登で栽培されたものだという事です。心から至福の笑みがこぼれる料理とでもいうのでしょうか。能登の日本酒を頂きながら、心ゆくまで堪能した夜でした。
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