人が集う時に、急に指名を受けて人前で話さなければならない時があります。あるいは結婚式でのスピーチのように、依頼を受けて何かまとまった内容を話さなければならない場合もあります。
人前で話す事は、結構勇気が要るものです。たとえ前もって原稿を用意していたとしても、慣れていないと、あがり、声がうわずってしまいます。そのような時の気持ちの持ち方や、普段から準備しておいた方が良いと思われる事を書こうと思います。
私は、20代の頃の一時期、司会業を仕事にしていました。発端はある大学の依頼で、マンドリンクラブの司会をした事です。その後もいろいろなイベントの司会を務め、しばらく尺八演奏家からの依頼で、邦楽演奏会の司会を専属で致しました。この経験のおかげでしょうか、人前で話す恐怖心や羞恥心を克服することができたように思います。
私は司会の仕事をする前、NHKのある有名なアナウンサーの方について、1年ほどナレーションを習っていました。その時、人に話をする時のポイントなども教えていただきました。その事についてお話ししたいと思います。
まずは、はっきりした発音で話す事です。
その為には、はっきりした声を出さなくてはなりません。日本語の母音「あ・い・う・え・お」がきちんと発音できなければなりません。それには鏡を見て、母音の音を出す時の口の形を意識して開いてみる事です。もちろん、声も出して下さい。
また、口先でもそもそ話さない為には、腹式呼吸が大切です。
腹式呼吸がよくわからなかったら、仰向けに横になり、お腹(丹田のあたり)に軽く両手を置き、お腹を意識しながら発声すると良いです。そして、大きな声で口の形に気をつけながら、「あ」「え」「い」「う」「え」「お」「あ」「お」と言ってみて下さい。年齢を重ねると何を言っているのかわからない、と言われることがあります。口をはっきりした形に開けていない為にそうなるのですが、その対策としてもこの「滑舌の訓練」は大切かと思います。私もそう言われないよう、滑舌に気をつけています。
次に気をつけなければならない事は、話すときにわかりやすい言葉を選ぶ事です。
話し言葉の場合、難しい言葉では意味が伝わらない事があります。特に大勢の前で話す時、どちらとも取れる言葉を選ぶと意味が通じません。誰でもわかる、わかりやすい言葉を選んで話すことが大切です。
指導して下さったアナウンサーのお話しのひとつに「ひとりにはひとりの話し方、100人には100人の話し方」というのがありました。
話をするという事は意味を伝える事ですが、小人数に向かって話す時に、大声で怒鳴るように話す必要はないと言うのです。「人数に合わせた音の出し方をした方がいい。」と教えて頂きました。マイクを使ったとしても音量は大切です。特に注意を引きたい時、囁き声が功をそうする場合もあります。
ところでナレーションに限らず、行間、「間」の問題を考えた事はありませんか。
文章や原稿についた句読点は、ただそれがある訳ではなく、それは人の呼吸であり、意味をわかりやすくする為についているのです。この句読点の扱いだけでなく、文章と文章の間、つまり「間」も大切です。噺家の人は「間」の取り方が上手だと言われます。「間」をうまく取ることが出来ると、話の内容が生きてきます。人の気持ちを集める事も出来ます。たまに、本を音読なさる事をお勧めします。
人前で話す時の視線は、どこに向けますか?
聞く人が5〜6人といった少数の場合は、もしあがってしまったら相手の目の下、鼻から口元あたりを見ると良いと思います。また、大勢の人の前で話す場合は、遠く視線を会場の入り口あたりにすると良いと思います。もちろん、慣れれば視線は話の内容によって近くにも遠くにも、自在に向ける事ができます。私は司会を始めた頃、先輩に「みんなカエルだと思いなさい。」とか「カボチャと思えば良い。」と教えてもらいましたが、そううまくはいきませんでした。深呼吸を繰り返して、息を整えるということもしました。人前で話すことは場数を踏み、慣れることが大事だと学びました。
原稿を用意して、ただそれを読む場合もあります。
その時は話を聞く人を意識されると、随分感じが変わります。それは、相手に内容を伝えると言う気持ちが入るからです。もし集会などで指名されたら、臆する事なく挑戦なさってみて下さい。これはチャンスだと思われて。
私はその後、仕事ばかりではなく、子供の通う学校のPTAの会長や学年委員長、母の会の会長などと、お世話をするたびに人前で話す事が多くなりました。ピアノの発表会の司会も頼まれて致しました。私は必ず前もって原稿を用意しますが、内容の骨子だけを頭に入れてあとはアドリブで話します。それは原稿に忠実にとあまり思いこむと、そのことばかりに気を取られるからです。
いつも何とか無難に人前で話す事がでるようになりましたのは、やはり昔ご指導いただいたお陰かと今は亡きアナウンサーに感謝しています。
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