一月になったら

海の向こうからあがる初日の出です。

元旦の朝をあなたはどのようなお気持ちで迎えられたのでしょう。

カーテンを開けてお日様の光を浴びた時、私は今年の始まりを神様から告げられたような神聖な気持ちになります。

最近の我が家の元旦の朝は、まず身支度を整えて近くの氏神様に初詣に出かける事から始まります。神様に新年のご挨拶を済ませ、お神札や破魔矢を頂き、家に戻ります。

それから慌ただしく新年の食卓をしつらえて家族が席に着くと、お屠蘇を年齢の若い順から頂きます。我が家のお屠蘇は、薬草に清酒と氷砂糖で作ったものです。何日か寝かせると甘く美味しいお屠蘇になります。これは母の作り方で、お砂糖を控えて辛口に仕上げる家もあるようです。

昔はお節料理のほとんどを自分で作っていました。黒豆、数の子、田作り、おなます、筑前煮、サーモンのマリネなど、暮れの内に数日かけて作っておきます。お節に飽きた時のためにカレーを煮込み、すき焼きなどの鍋の材料も揃えて置きます。お刺身は元旦の朝、大皿に盛りつけました。海鼠(なまこ)は端を落として真ん中から割り、内臓は抜いて取っておきます。海鼠は小口に切り、橙の絞り汁に薄口醤油少々とほんのり濃い口を加えて味の素をちょっとふって液を作り、混ぜておきます。内臓は中をしごいて流水でよく洗い塩をふって瓶などに入れて2、3日置いておくと、酒の肴にもなる美味しい塩辛になります。

私は出来たお節を豆皿やリキュールグラス、高台磁器の小鉢など種類の違う器に少しづつ盛り、黒塗りの角盆を使って奥にバランス良く並べ、取り皿とお箸を手前に置き、一人分のセットにしていました。揚げ物やお刺身、筑前煮などはそれぞれ大皿や大鉢に盛ってテーブルの中央に置きます。

お箸には一膳づつ家族の名前を書きました。

お屠蘇やお酒と頂いた後はお雑煮です。我が家は昆布とかつ節で出汁をとったすまし風です。白菜、鶏肉、蒲鉾、椎茸、それにお餅です。最後に柚子の皮で作った結び松を乗せます。お雑煮碗の蓋を取ると、湯気と共に柚子の良い香りがします。

二日目や三日目には段々ご飯が欲しくなります。そんな時作った海鼠をご飯に乗せて頂きました。この食べ方は父が好きでしたので、私は子供の頃から真似ていました。邪道とも思え、こんな食べ方が本当にあるのかと調べましたら、平安時代、貴族が食べていたとありました。もちろんこの頃まで寝かせたカレーは味を増して絶品です。

松の内が過ぎると、段々と普段の暮らしに戻って行きます。せっかく大掃除をしたので、綺麗さを保ちたいと思うのですが、子供の手がかかるうちは日々に追われて無理でした。

今は子供達が大人になり皆んなが忙しくなりました。私も長くキッチンに立っている事が出来ず、とうとうお節はお取り寄せになりました。

ただ、今も一人づつ黒塗りのお盆の上に普段使わない赤絵や白磁のお皿や新しいお箸、それに盃やグラスで整える事は続けています。ただ作り方を残しておきたい、黒豆、手羽先のオレンジ揚げ、おなます、それに筑前煮などは毎年作り、お鉢や小皿などに持ってお重の横に加えたり、お盆の上に乗せたりします。

一月は我が家にとって祈りの月でもあります。休日毎に家族で有名な神社に参ります。浅草の観音様、神田明神、日枝神社、明治神宮などです。浅草には独特の賑わいが残っていますし、神田明神では江戸情緒の雰囲気を楽しむ事が出来ます。

祖母がこんな事を言っていました。「一月は去ぬ(いぬ)月、二月は逃げ(にげ)月、三月は去る(さる)月」、つまり一月から3月までは飛ぶように過ぎて行くよ、と言う意味です。だから日々を大事にしなさいと言う訳です。

一月は一年の始まりの月、襟を正して日々を過ごしたいと存じます。

MAIさんのピアノ演奏で、「春の海」をお楽しみくださいませ。


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