これまでに様々な女性に出会ってきました。外見だけでなく心根の可愛い女性、負けず嫌いで強い女性、甘え上手でしかも人に不快感を与えない女性、中には自分の利益の為に人を操ったり感情を抑えられない人もいました。
「あなたの心模様が顔に出る」と、母は口癖のように小学生の私に言いきかせました。子供に、目に見えない心がわかるはずもありません。意味もよく分からないまま、叱られたくない一心で、私はただ頷いていました。
でも、この年齢になってやっと分かるように思うのです。どんなに化粧でごまかしてみても、心の内から発せられるその人の心模様を、不思議と顔に映し出してしまうのです。そして、その人の顔や態度に刻みつけていくように思われるのです。
今ではあまり聞かれない言葉に「威厳」があります。
「威厳」とは、堂々としており、重々しく近寄りがたいさま、と辞書にあります。昔は「威厳がある」と評せられる人がいました。主に男性です。フレンドリーとは逆の意味です。女性には滅多に使われない言葉です。
シスター・ピエールは、次女が通った高校の寮にいらっしゃった先生です。この私立の高校は、入寮に親子での面接テストがありました。担当の面接官の一人が、シスター・ピエールでした。黒い修道服に身を包み、文字通り威厳に溢れてるとしか言いようのないシスターを前に、娘と私はかなり緊張して受け答えした事を覚えています。
シスター・ピエールのご経歴は娘が入学して知りました。以前は、高校の学園長や理事長を長く務められ、次女が入学した当時は、寮生の指導に当たっていらっしゃいました。次女は一年間一度も欠かさず、毎週一回の「祈りの時間」に通ったそうです。そしていつもピエールの横に座って、祈りを献げたと話します。
私がシスター・ピエールにお目にかかれたのは、3年間で十数回あったでしょうか。でもその度に、人としての厳格な生き方の中に、深い教養と豊かさをお持ちの方だと、話の端々から推察しました。
ある時、シスター・ピエール自身から「人には様々な生き方がありますが、自分はシスターとしての道を選び研鑽を積む一方で、女子教育に人生を費やした一生です。」と言う内容のお話を伺いました。そのお言葉はシスター・ピエールを全て言い表しているように思いました。
次女は卒業後、シスター・ピエールに2度ほどお手紙を頂戴しています。
そこには『人生において生きる意味を考え、確固たる自分を持って決して自分を貶め(おとしめ)ないように生きて行きなさい』と書かれていました。シスター自身、そのように生きてこられたのではないのでしょうか。
シスター・ピエールは私にその存在で、威厳の意味を教えてくださった尊敬する女性のひとりです。威厳を具体的に言葉で説明する事は難しいのですが、シスター・ピエールの中から発散されたオーラとでも言うのでしょうか。
人はその方の本来の性格だけでなく、生い立ちや置かれた環境で、また目指す生き方で変わっていくのだと思います。
数年前、私達はシスター・ピエールが神に召された事を知り、その洞察力の鋭さや敬虔な人柄、私にかけて下さった温かい言葉の一つ一つを思い出して、厳粛な気持ちになりました。
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