私が30代で煎茶道に励んでいた時、宗匠に教えて頂いた話です。
「話を聞く時は、コップの水を空にして聞かなあかん。」
宗匠はそう話し始められました。
「コップに水が入っとったら次に入れられる水は少ないやろ。沢山水をコップに入れようと思うたら、先に水が入っとったらもうちょっとしか入らへんよ。人の話を聞く時は、心を空にして聞く事や。」
なかなか難しい事です。程度の差こそあれ、人は絶えず五感、更に六感まで使って人と接しています。人と対座しているということ自体が緊張の連続です。頭の中では様々な考えが常に錯綜しています。宗匠は、何と難しい事をおっしゃるのだろうと思いました。
幼稚園に通い始めた子供を育てている時の事です。
「子供の話を聞く時は、子供の目線に自分の目線を合わせてから聞きなさい。」と、育児書に書いてありました。でも問題は、その時の母親である私の頭の中です。子供の話を少し聞いただけで、子供にどう話せばいいか、答えを求めて回転を始めているのです。
子供は、私に何か言って欲しいと思っていたのでしょうか?
ふと、子供が望んでいたのはそのような事ではないように感じました。
あの宗匠の言葉が浮かびました。私の心の中にすでに水が溜まっていたのでは、子供の言葉を本当にすくい取ることは出来ないと思いました。
「心を空にして、じっと人の話に耳をかたむける」は大切な事です。
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