長く生きていると、出会いばかりではありません。別れもあります。
理由がはっきりしている場合には納得していますので、心の整理もつけやすいものです。でもそのような別れではない時があります。ある日、突然住所の書かれていない別れの手紙が届いた場合、心がかき乱されます。ただし残念ですが、私のお話ししたいと思っている方は、恋人ではありません。
以前このブログで「プロのシャンプー」と言うタイトルで本物のプロとは何だろう、と言う視点で書きました。
私はポリシーを持ち、プロに徹する人をリスペクトしています。
どんな職業であってもその姿勢は人を感動させるからです。Uさんは長年通っていたビストロの店長だった方です。
Uさんは接客業のプロでした。そのお店は、25年以上前になりますが、長女とふらっと入ったお店でした。営業スマイルではなく、Uさんのように人を包み込むような優しい笑顔に迎えられた事はありませんでした。何かを特別に話した訳ではありませんでした。お水を運んで下さる、お料理を運んで下さる、その度に彼独特の微笑みがあるのです。その微笑みは本来お持ちだったものかも知れません。上半身を少し折る、少し首を傾げて。その角度が絶妙でした。
何度か通ううちに、すっかりこのお店のファンになりました。私達はゆったりとした気分のままビストロ最終の時間まで居る事もありました。するとUさんが、「これお持ちください。」と言って帰りにお店で作ったバゲットを持たせて下さるのです。自宅で、アルミホイルに包んでトースターで温めて頂きました。Uさんの笑顔を思い出しながら。
しばらく足が遠のくこともありました。でもお店に入っていくと、いつも当たり前のように彼がいました。その内、Uさんがお休みかどうか確認して行くようになりました。Uさんの笑顔に癒されていたお客様は他にもたくさんいらしたと思います。実際、私が友人をこのお店に誘いましたら、「私もこの店のファンで来ていたのよ。」と言われました。
コロナ禍で足が遠のいていたある日の事です。Uさんからお手紙を頂きました。そこには、お店を引退しました、と書かれてありました。ご高齢のお父様を看る為、そして自分自身を見つめ直す機会です、とありました。一際大きな文字で、私達家族への感謝の言葉がありました。
あの何とも言えない笑顔にもう会えないと思うと、寂しさで胸がいっぱいになりました。決して出しゃばらず、分をわきまえて客に安心感を与える方でした。
ご住所が書かれていませんでしたので、こちらから感謝の気持ちを伝えられないのがとてもとても心残りです。あの笑顔を思い出す今日この頃です。
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