灼熱の太陽が、雲ひとつない青空に容赦なく「夏だ!夏だ!」と叫んでいるようです。
そんな太陽に対抗して、今回はブロードウェイで観劇した気分にもなれる熱い恋愛小説をご紹介したいと思います。
実は初版本は2001年ですからもう10年以上前に出版されたのですが、私は時々本箱から取り出して楽しんでいます。
ディヴィッド・シックラー・中谷ハルナ訳 「マンハッタンでキス」
この本は11編の魅力ある短編小説とも言えると思いますが、実は一編一編が複雑に絡み合っていてどの話も見逃せず、全体を膨らませる役割を担った長編小説になっています。しかし、道化じみて滑稽だと思える話もクライマックスに至るに従い、深い愛情と思いやり、それに癒しが加わって何とも言えない優しさのある作品です。
さて、それぞれの短編の主人公はそれぞれに独創的であり個性的ですが、共通している事はそれぞれが癒やし難い孤独を抱えていると言う事です。その孤独は幼少時代から秘密のように持ち続けていたものであったり、人生経験の上からストンとポケットに入るように感じてしまったものであったり、挫折が発端であったり皆違います。
でもこの本の主人公だけではなく孤独は誰しも感じているものではないでしょうか?
これは突き詰めると根源的な問題で、もしかしたら人が一人で産まれてきた事と関係があるかもしれません。結局一人で産まれ、一人で死んで行くと言う人としての宿命かもしれません。昔の話ですが、結婚した叔母が夫の不倫に直面した時「私ね、好きな人と結婚して幸せと思っていたけど、そんな時でもどうしようもない孤独感に襲われていたの。」とポツリとこぼしました。私はその時、人は孤独からは逃げられないのだと思いました。
特に人と人の結びつきが希薄になっている現代では孤独は大抵の人が抱えている事実です。その孤独を癒すために人との交わりがあり、恋愛も結婚もその最たるイベントかもしれません。現代は輪をかけてインターネットの普及が進み、情報を取り入れることで人は自分の孤独という空白を埋めているかのようです。電車に乗って周りを見ると、大半が俯いて携帯を睨んでいます。
この物語は孤独を解消してくれるものではありません。物語自体は滑稽だったりスタイリッシュだったり、真面目だったり様々です。主人公も強者ではありません。どちらかと言うと泣きたい程の弱者だったりするのです。でもどの主人公も愛を尊いと考え、失敗や恥辱を味わいながら人生にひたむきに生きています。
もう一つのキーワードは「プリエンプション」という古めかしく格式がありながら謎めいている集合住宅です。そこにはオーティス製のこの建物の歴史を見てきた美しいエレベーターが作動し、登場人物を物語の核心へと導きます。
もうひとつ言い忘れました。この小説はミステリーでもあると言えます。
さあ、何通りもの味わい方の出来る「マンハッタンでキス」の開幕です。
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