冬になると思い出します。
私の母は月や星を鑑賞するのが好きな人でした。そのために玄関にはいつも双眼鏡が置いてありました。晩秋から冬にかけての夜空はピーンと濃紺のキャンパスを張ったようで、お月様やお星様をより冴え冴えと観せます。
あれは母が亡くなる数年前の事です。早朝4時くらいの事でした。眠れずに起きあがって居間に行くと、母も気配を感じたのか起きて来ました。しばらくお茶を飲みながら話をしていたのですが、急に母が立ち上がり、「星を見に行こう。」と言ったのです。冬の事で吐く息も白く、外は凍るようでした。でも見上げると、満天の星です。頭上には「天の川」が間近に広がり、無数の星が瞬いていました。あの時、母はなぜ星を見に行こうと突然言い出したのか、と時々考える事があります。行き詰まった私の為に誘ってくれたのだと察するのですが、亡くなって随分時を経た今となってはその話をする事も出来ません。ただとびきり美しかった夜空は深く心に刻まれています。自然に託した母の愛だったかも知れないと今は思っています。
実家に帰ると、夕暮れ時から母がいなくなる時がありました。そのような時、母は大抵空に向けて双眼鏡を覗いているのです。時には「見てごらん。お月様が手に取るようにわかるから。」と、私に双眼鏡を渡してくれました。
気がついたら、私も母と同じ事をしています。今の私の住まいは街自体が明るい為か、星を探す事がとても困難です。でも、冬には新月の前後からはっきりと「オリオン座」がベランダの頭上に広がります。私はおおいぬ座の「シリウス」が一番好きです。ですから、まず光の強いシリウスを最初に見つけます。今年はオリオン座のペテルギウスとこいぬ座のプロキオンを探し「冬の大三角形」を何度も確かめて感激しました。よくよく見ると、まだまだ小さい星が点在しているのが分かります。何億光年も前の光が私を癒してくれると想うと、心が震えます。
また、今年は13日過ぎのふたご座流星群を始めとして、年末にかけて多くの星が肉眼でも観られるそうです。
特にクリスマス前後、「ベツレヘムの星」とはこの星の事ではないかと言われる木星が日没後南東の空高く輝くと言います。また、冬至には最も南で太陽が落ちて行き、その後こぐま座の流星群も観られるそうです。そして、「東方の三博士」と言われる並んだ三つの星のまわりで、あのオリオン座のペテルギウスやリゲルなどの星が輝いているのです。もし一つでも探せたらと、ワクワクした気持ちです。ただし天体観測にはお天気であると言う事と街の暗さが必要です。山の暗さを背景にした実家だったらと思わずにはいられません。
私は宇宙飛行士ではありませんので、星を地球から見るのですが、立花隆著「宇宙からの帰還」を読むと、この地球こそ最も美しい青く輝く星だとあります。確かに TVやインターネットで月から観た地球の美しさは例えようもありませんでした。その美しい地球に住まわせて頂いている事を想うと、感謝の気持ちでいっぱいになります。特別な事は出来ずとも「地球を汚さない!」と言う気持ちが膨らんできます。
今夜にでも外に出て夜空を見上げてみて下さい。ただし、どうかお風邪をひかれないように厚着でお出かけ下さいませ。
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