「茶道」二人の恩師

抹茶のお点前です。

私は茶道を二人の先生から学びました。最初に手解きをして頂いたY先生。Y先生がお亡くなりになり、その後教えを乞うたK先生。どちらも私を育てて下さった恩師です。

実家は芸事の好きな家でした。祖母は私にお三味線を習わせたかったようでしたが、肝心のお三味線を伯母が持っていってしまったとかで、祖母の望みは叶いませんでした。祖母は歌舞伎や踊りの会があると幼い私を必ず連れて行きました。ですから、歌舞伎の「連獅子」(れんじし)や日本舞踊の「鷺娘」(さぎむすめ)と言った言葉を小さい時から耳にしていました。

5歳の時、近所のお習字の先生の所に通い始めました。当時60代と思われる先生は着物を着て白髪を緩くまとめた姿で、自由な筆遣いを教えてくださいました。小学校に入り3年生になると日本舞踊を習う事になりました。私はバレエを習いたいと思っていましたので、気乗りがしませんでした。でも、筋が良いと言うので人様の前で度々踊るようになりました。その頃、家にはお花の先生が来られて、母が習っていました。ですから、いつも流儀に叶った生花が床間に活けてありました。その後、ピアノ、歌、バレエなど始めてみましたが長くは続きませんでした。

その私が初めて自分から習得したいと思った「茶道」で教えをこうたのがY先生です。

当時の先生は60代に入られたばかりでした。私にY先生をご紹介下さった方は、先生に「後々、人に教えられるように仕込んで下さい。」と、Y先生に頼まれていたそうです。その為だったのか、Y先生の私を教える時の熱意はすごいものでした。茶道では扇子が必需品ですが、少しでもお点前が違った時や美しくない動きをするとその扇子でピシャリと叩かれました。

私はお稽古を始めた数年、お弁当持参で先生のお宅に出向き、自分のお稽古が終わると部屋の外の廊下に座り、先輩方のお稽古の様子を勉強させて頂いていました。いつも時間より早くお宅にお邪魔するので、居間で待つ事も多くありました。先生はいつも着物をお召しでしたが、座ったままで帯を器用に結ばれていました。ある時、「あなたはまだ若いけど、この年齢になると赤いものがいるのよ。」と言って美しい面長のお顔に赤い口紅をつけられました。手取り、足取りと言うのでしょうね。お抹茶の事だけではなく、様々な事を教えて頂きました。どこにでもある事ですが、社中で飛び交う悪口も「言わせておけばいい。言う人は言えば気が済むのだから。」と流していらっしゃいました。

年に数回、裏千家から業躰(ぎょうてい)とお呼びする宗家の先生がいらっしゃった時は模範点前に出るよう言われました。その為に勉強もしましたが、大勢の前でのお点前には大変緊張致しました。いつの間にか社中では私が決まって出るようになりました。

Y先生ご自身も大変な勉強家で、毎月京都の裏千家の業躰長の所にお稽古に通われていました。この恩師が突然急逝された時には、私の心はぽっかり穴が空いたようでした。

お稽古を続ける意欲を無くした私に茶道のお仲間が声をかけて下さったのは、2、3年経ってからの事かと思います。その時友人に「今度は先生のお人柄できめる?それとももっと上手くなりたい?」と聞かれました。私は支部の役員を務めているその友人に「お人柄の良い先生をお願い。」と答えました。ご紹介いただいた先生がK先生です。Y先生のお計らいで様々なお茶席に出ていました。そのせいで先生を多く存じ上げておりました。

どちらかと言うとK先生は控えめな印象の方です。でも、ご年齢が60代で先の先生に近いものを感じました。

K先生は「あなたはY先生にしっかり習っていらっしゃるから、私はあなたが自己流にならないように気をつけて見ますね。」とおっしゃいました。違う社中に入る事は少し勇気が必要です。ホームではなくアウェイの感じです。こちらでは皆さんご年配の方ばかりで、私は30代で最年少です。意地悪を言われる事もありましたが、親切な先輩方が多くてホッとしました。先生はお優しい方でした。数年後には個人的な相談に乗って頂くこともありました。

先生のお言葉で忘れられないのは「人は死ぬ瞬間までわからないものですよ。」です。希望は最後まである、と言う励ましの意味で使われたのだと思います。

K先生にはY先生より長くお世話になりました。

日本の秋の花、コスモス畑です。

「茶道」は奥が深くてまだまだ道半ばです。今は体調を崩して座る事が難しくなりましたが、お抹茶を点てる楽しみ、お抹茶を味わう楽しみそれから茶道を教える楽しみは私の生活に活きています。ありがたいことだと思っています。


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