ちょうど2000年に入った頃だったと思いますが、仕事で大阪に行く事がありました。私は体調が悪く、付き添った娘に支えられるようにしてホテルに入りました。ホテルはハイアットリージェンシー大阪です。
私は部屋に入るなりベッドに倒れ込みました。当然夕食はルームサービスです。娘はステーキ、私は煮込みうどんを頼みました。が、具合が悪すぎてほとんど食べられませんでした。
食事を下げてもらうよう連絡したところ、まだ20代かと思われる男性スタッフが下げに来ました。彼が部屋を出てドアを閉めた時、娘が小さな咳をしたのです。しばらくすると、またドアをノックする音が聞こえました。怪訝な顔で娘がドアを開けると、先程のスタッフがハチミツの小瓶とレモンを乗せたトレイを持って立っていました。「お風邪がひどくなられ無いようにと思い、お持ちしました。」
ベッドで横になっていた私もその事を聞き、その心遣いに感心してしまいました。宿泊客の小さな咳を大事と捉え、機転を効かせられるこのスタッフを凄いと思いました。
2013年(平成25年)の事です。この年の6月、娘と箱根に向かいました。梅雨時の事、予期した様に曇っていたかと思うと激しい雨粒が落ちてきました。早雲山からのロープウェイに並ぶ人も少なく、日にちを間違えたかと少々気落ちしました。ロープウェイには娘と私だけでした。ロープウェイは深い霧に囲まれて一寸先も見えません。雲海の中を落ちていくようにロープウェイは進みます。すれ違うロープウェイに乗っている人は稀です。不思議な体験でした。やっと麓の桃源台についた頃には肝心の芦ノ湖もどんどん霧に覆われれて行き、私達の乗った海賊船を最後に運行は中止になりました。雨はどんどん酷くなり宿泊先の「翠松園」に着いた時は傘もろとも、ずぶ濡れの状態でした。
実は、私はこの旅行におろし立てのローファーを履いていました。もちろん靴もずぶ濡れです。靴擦れさえしないこの靴を私は大変気に入っていて、もう駄目になるだろうと、残念な気持ちでいっぱいでした。部屋に案内された時の事です。スタッフの方が「この雨で大変でしたね。お靴も濡れてしまわれて、お困りでしょう。この靴をお預け頂けますか?何とか乾かしてみたいと思います。」とおっしゃって持っていかれました。雨を逃れてホッとした気持ちもあり、靴の事はすっかり忘れて温泉に浸かり、ゆっくり寛ぎました。
翌日はあの雨が嘘のように晴れ上がっていました。あの靴はと申しますと、中に少しシミは残ったものの形が崩れる事もなく綺麗に乾いていました。私はこの靴を履き、今度は視界の広がった大涌谷をロープウェイで再び降りたのです。もちろん、富士山を眺める事も出来ました。
気遣い、心遣いとはマニュアルには無いものです。その人の温かな心持ちや思いやりから出来るものです。そんな特別な行動をお茶の世界では「気働き」とも言って大切なこととしています。私も気働きの出来る人でありたいと常々思っています。
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