私たちの生活には、古来中国に影響を受けたという物や考え方がたくさんあります。
茶道でも、随所に中国の影響が見られます。例えば、中国の宋、元、明、清の時代に中国で焼かれた抹茶碗や茶入れ(抹茶を入れる入れ物)、水指(みずさし)などを「唐物」(からもの)と称して尊んできました。特に上質の唐物茶入れ(からものちゃいれ)には「名」(めい)をつけ、珍重してきました。例えば、「大名物」(だいめいぶつ)として藤田美術館所蔵の国司茄子(こくしなす)茶入れ・野村美術館所蔵の北野茄子(きたのなす)茶入れ・静嘉堂文庫美術館所蔵の富士茄子(ふじなす)茶入れなどがあげられます。また、抹茶碗も例えば南宋の時代に建窯で焼かれたとされる「曜変天目」(ようへんてんもく)、その中でもとりわけ美しい三碗の天目茶碗は国宝に指定されています。その天目茶碗はそれぞれ、京都大徳寺龍高院、大阪の藤田美術館、東京の静嘉堂文庫美術館で所蔵されています。焼き物は火と炎の芸術と言われますが、窯内で偶然に生じた美しい結晶は見る者を驚かす美しさです。また、茶室の中は「陽」と「陰」に分けて考えます。つまり、客側が「陽」、お茶を点てる亭主側を「陰」とします。さらに茶室自体は「宇宙」を表すと私の師は言われました。
話は飛びますが、平安の頃、古代中国の思想に端を発した「陰陽」(おんみょう)の考え方がありました。
これは宇宙のあらゆる事物を陰と陽に分けると言う考え方で、「陰陽師」(おんみょうじ)という専門職を生みました。今でもそれにインスパイアされた書籍や映画などが作られています。私は、夢枕獏(ゆめまくらばく)原作の野村萬斎氏主演「陰陽師」は一作目が真田広之氏、二作目が中江貴一氏の共演で、両作共に面白く楽しみました。
この陰陽の考え方は日本の文化、ひいては私たちの暮らしに大きく影響しています。
最初に書いた茶室の「陰」と「陽」の考え方もそうですが、私たちの暮らしの習慣に大きく関わっています。身近なところでは、お正月の重ね餅もそのひとつです。ふたつの餅を重ねる事で「陰」と「陽」のバランスをとっているのです。通常「数」で言いますと、奇数は「陽」、偶数は「陰」とされます。祝い事の金額に奇数の数を選び、忌ごと(例えば、葬儀や法事)に偶数の数を使うのもそのためです。
この陰と陽の考え方は中国の戦国時代の五行説と結合し、「陰陽五行説」として日本に伝来したものに日本古来の自然崇拝の考え方がまとまってひとつの思想になりました。
「五行説」とは「万物は木・火・土・金・水の五つの元素からなりたつ」とする考え方です。ですから天地間にあって万物を巡回する「陰」と「陽」、その万物を作り出すもとになるのは「水・火・木・金・土」と言うわけです。五行は色とも関係しています。青(緑)は木、赤は火、黄は土、白は金、黒(紫)は水とされています。
お正月のお節料理に赤・黄・黒など五色の色を使う事もそうです。例えばお節のひとつ、「五色なます」(ごしきなます)は大根、人参、干し椎茸、油揚げ、柚子などで作ります。また、神社で見かける五色の幕や短冊の色も関係しているのです。相撲の土俵の上にある房の色もその影響を受けています。この五色は「青(緑)」「黄」「赤」「白」「黒(紫)」で森羅万象を表し、それが揃うことで魔除けになるとされます。
現在でもこの陰陽五行説を使った占いを雑誌で見かけます。
いまや「陰陽五行説」は中国の話ではないのです。日本の文化や生活習慣の中にしっかり溶け込んで、私たちの生活の中で生きているのです。
丸の内の静嘉堂文庫美術館で「黒の奇跡・曜変天目の奇跡」が開催されます。
会期は4月5日から6月22日の間です。
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