手前の橋から渡りなさい

希望を与えてくれる空

明治生まれの祖父は寡黙な人でした。祖父の笑い顔を見た記憶がありません。

思い出すのは、小学生の時「本箱」を作るという宿題がありました。糸鋸(イトノコギリ)を上手く使えず四苦八苦している私を見かねて、祖父が「貸してごらん。」と糸鋸を取り上げました。今にして思えば、コの字型の簡易な本箱です。祖父はたやすく本箱を作り上げ、角の面取りまでしてくれました。私の仕事は、ニスを塗るだけでした。しかし、その後に祖父との距離が縮まったようには思えませんでした。

中学生の頃かと思うのですが、私は何かで、にっちもさっちも行かない事にぶつかった時がありました。その時、行き詰まった私の様子に「手前の橋から渡りなさい。」とあの寡黙な祖父が声をかけてくれたのです。

「手前の橋」とは何でしょう。

その時の私がどの様に祖父の言葉を理解したかは、今となっては思い出す事が出来ません。

恐らく「手前の橋」とは身近にある何か、私にもすぐに出来ることから始めてみなさい、と言う意味だったのでしょう。

大人になり、誰にも相談できないような問題にぶつかると、私は悩みとは別の、例えば家中の靴を磨くなど普段できない家事を見つけて没頭しました。夢中で身体を動かしていると、そのうちに縮んでいた気持ちが他への意識のせいで少し緩むのか、整理出来たりして解決の糸口が見つかる事があります。

今でも頭がいっぱいで考えられなくなった時、祖父の「手前の橋から渡る」の言葉を思い出し、絡まった糸を解きにかかります。


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